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突然の背部痛と大動脈解離

仕事

 先日の我が家で出来事です。

私の夫が、突然の背部痛を訴えて電話をしてきました。

「さっき急に背中が痛くなって。多分ぎっくりなんだけど、痛いから病院行く。背中なんだけど、ぎっくり背中ってのがあるらしいからそれだと思うー」と。

「えっ!ちょっと待って大丈夫?」と切り出して状況を色々と確認しましたが、モヤモヤして心配です。

突然の背部痛、と聞いて医療従事者として私たちが真っ先に考えてしまうのは、「大動脈解離」です。特に冬場、寒さが血圧を急激に上昇させ、心臓血管系のリスクを高める季節では、大動脈解離の発生率が増加するとされています。

ICUに搬送される患者の中でも、特にこの疾患は生命に直結する重篤な状態であり、医療チーム全員が緊張感を持って対応にあたります。


大動脈解離の病態生理

大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂が生じ、血液が中膜へと流入して真腔と偽腔が形成される状態です。この亀裂は突発的に生じることが多く、進行速度が速いため即時の対応が求められます。偽腔が拡大すると、大動脈が周囲の重要な臓器や血管を圧迫し、急性心筋梗塞や腎不全、脳梗塞といった多臓器不全を引き起こすリスクが高まります。

分類としては、Stanford分類が広く用いられています。

  • Stanford A型: 上行大動脈が含まれる解離。緊急手術が必要なケースが多い。
  • Stanford B型: 上行大動脈が含まれない解離。降圧療法を中心とした内科的治療が主体。

診断にはCTが用いられることが一般的ですが、救急外来では心エコーや胸部X線も有効です。患者さんの訴えや症状、バイタルサインの変化から迅速な判断が必要です。


ICUにおける看護のポイント

術後の大動脈解離患者さんは、細心の注意を払った管理が必要です。以下のポイントが特に重要です。

  1. バイタルサインの厳密なモニタリング
    術後は血圧管理が最も重要な課題です。過度な血圧上昇は再解離や手術部位の破裂を引き起こすため、持続的な降圧療法が行われます。血圧は通常、収縮期血圧を100〜120mmHgに保つことが推奨されていますがこれは医師の指示に従いますが、非常に細やかな管理が求められます。その上で鎮静管理も欠かせません。鎮静が深すぎると血圧が下がりすぎたり、挿管中の患者さんの咳嗽反射を抑制させることでの弊害が起こります。鎮静が浅いと、患者さんは覚醒してしまうので血圧が上昇してしまいます。また、対麻痺など様々な合併症も迅速に見つけていくため観察に余念がありません。
  2. 疼痛管理
    術後の疼痛は交感神経を刺激し、血圧上昇を招く可能性があります。適切な鎮痛薬の投与とともに、患者さんへの心理的ケアも不可欠です。
  3. 感染予防
    人工血管の使用や長時間の手術による免疫力低下がリスクとなります。呼吸器ケアや創部管理を徹底し、感染の徴候を見逃さないことが重要です。
  4. 家族への情報提供とサポート
    ICUでの治療は、家族にも多大なストレスを与えます。治療の見通しや現状を丁寧に説明し、適切なタイミングでサポートを提供します。

大動脈解離ならではのエピソード

 先日の夜勤では、60代の男性が背部痛を訴えて救急搬送されてきました。Stanford A型の大動脈解離と診断され、緊急手術後にICUに入院しました。適切な鎮静管理や薬剤管理、血圧モニタリングをしていくため、目が離せない状況が続きます。血圧上昇時にはすぐに高圧薬、鎮静薬の調整やボリュームコントロールを迅速に行い、血圧が下がるとカテコラミンを使用することもあります。ICUの患者では、血圧管理も非常に厳重に行われるため、医師の指示の血圧の範囲が非常に狭く、昇圧剤を使用した直後に降圧剤にすぐ切り替える、なんてこともよくもあります。

血圧管理が患者の状態に直結していくので、少しのミスも許されない状況です。そしてこのような患者さんの多くが、術後夜中に帰ってくるイメージですので、夜間スタッフが少ない中でも迅速な対応が求められ緊張感が高まります。

 後日その患者さんが、ICUの病棟内をリハビリで歩行している姿を見て安堵しました。もともと元気だった人は回復するのも早いので嬉しさはありますが全ての患者さんがトントン拍子に回復、とまではいきませんが、そうなれるよう私たち頑張ります。


おわりに

大動脈解離は、患者さんの命を一瞬で危機にさらす恐ろしい疾患です。しかし、医療チームの迅速かつ正確な対応と看護の力が、命を救う大きな役割を果たします。このような疾患に立ち向かう私たち医療従事者は、常に学び続け、最善を尽くす姿勢を持ち続けることが求められます。

この記事を通じて、少しでも多くの方に大動脈解離の重要性と看護の価値を知っていただければ幸いです。

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